1. 初めてのヴァナ
オレが初めてヴァナ・ディールへと放り出されたのは、まだ冬の寒さが残る日だった。 なんだかよくわからないままゲーム最初のイベントが終わり、オレは街中に放り出されていた。
Celenという名の、髪の毛が長いひとりの男がここに誕生したわけだ。 目の前にいる長髪の男の頭上には「Celen」という文字。 そうか、これがオレなんだな。そんな当たり前のことに感動した。
それは北サンドリアと呼ばれる場所だった。 が、ここがどこなのかなんて、当然今のオレが分かるはずもない。 とりあえず何をしよう。・・・そうだ、宿屋を探そう。 RPGゲームとは、まず宿屋と武器屋、それと防具屋を探すことから始める。 オレのいつもの行動パターンだ。 そのパターンに沿って、オレは看板を探し、街中を走る。
広大な街中をしばらく走っていると、ほどなくして宿屋らしき建物を発見した。 オレはその建物の中へと、そっと足を踏み入れる。
ギギッ音を立てて開いたドアの向こうに、NPCと思われる人物がカウンター越しに立っていた。 やっぱりここだったんだな。そう思ったオレは、そのNPCに声をかけてみることに。
NPC「この辺も物騒になったもんだなぁ。あんたも冒険者なのかい?あんまり遠くに行っちゃダメだよ。」
・・・ん?
あれ、泊まれないぞ。どうなってんだ??
お金がないからなのか、いや、それとは別に回復する場所があったりするのか? 往来のRPGに慣れすぎていたオレは、「全回復=宿屋」という方程式しか知らない。 とりあえず宿屋は保留にしておいて、今度は武器屋を探そう。 そう思ったオレは、再び走り出す。
・・・。
迷った。 先ほどの場所からだいぶ離れたところで、オレはしばらく呆然とすることになった。
あまりにもワケがわからなかったので、ステータス画面を開いたり閉じたりしてみる。 と、そこにマップ情報を閲覧できる項目があることを発見。
北サンドリア・・北って、他にもサンドリアあるのか。 じっくりと街中の地図を眺めたオレは、地図に沿って南サンドリアへと足を向けた。
地図さえあれば迷うこともない。 少し心に余裕が出来たオレは、歩きながら周りに目を向けてみる。 さっきは気付かなかったが、よく見てみるとNPC以外のキャラクターも、オレと同じように街中を縦横無人に駆け回っていた。 通りがかった噴水前では、釣竿を片手にまったりと釣りを楽しんでいる人もいる。
NPCではない、オレと同じこのゲームをやっている知らない誰か。 そんなオンラインゲームでは至極当たり前の事に、軽く驚きを覚えた。
南サンドリアにエリアチェンジ。
そこは、先ほどののどかな風景とは一風変わっていた。 Say会話やShが飛び交い、人々の群れでごった返す場所。 そこはまさしく「商店街」というにふさわしい賑わいだった。
「ラテへ狩りに出かけたいと思います。戦士10~15の方、暇なら一緒に行きませんか~!!」
「闇クリ3000で売ってくれる方いませんかー?」
「やべwwww山串と間違って海串買ったったwwww」
そんな一流プレイヤー達の生活風景に圧倒されるオレ。 一歩後ろへと後ずさる。
“ここはオレみたいな初心者がいちゃいけない、よし、さっきの場所へ戻ろう!”
オレは元いた北サンドリアへと引き返した。
そう。小心者・Celenの誕生の瞬間だった。
・・・。
しばらく北サンドリアののどかな風景を楽しんだあと、オレは街の外へと出てみることにした。 地図を見ながら、おそらく外だろうと思われる門へ移動する。
門に到着したオレは、光輝く不思議な石を発見した。 それはホームポイントと呼ばれる石だった。
そっと手を伸ばして触れてみる。
シュイーーン
よく分からないが、とりあえずホームポイントが設定されたそうだ。
頭の上にいくつも疑問符が並んでいたわけだが、構わずオレは門をくぐった。
エリアチェンジが行われ、視界が外界へと移っていく。 そこはロンフォールと呼ばれるエリア。 それが、サンドリアから出た、オレの最初の外界エリアだった。
オレと似たような服をつけて走り回る人達。 のどかな音楽が流れるこの場所で、先輩プレイヤー達はせっせとモンスター達を叩いていた。
オレもその光景にあやかり、ミミズや兎を片っ端から斬ってまわる。
ザシュッ!ザシュッ!!
ミミズの化け物へと斬りかかった時の、剣戟の効果音が心地いい。 オレの初期ジョブは戦士。初めから持っていたオニオンソードのそれで、バッサバッサと斬りまくった。
ちゃっちゃら~~ 経験値 100
すげぇ。こんなに貰えるのか。
すぐに上がるLv。初期装備だが、確実に強くなっていく長髪男のステータス。 それがなんだか嬉しくなって、オレはしばらくの間、敵を倒し続けたのだった。
その間、オレはモグハウスと呼ばれる場所にいけばHPが回復するらしいことを学ぶ。
・・・。
レベルが5に上昇したことで気分がよくなったオレは、少しだけ遠出をしてみることにした。 大丈夫、ある程度の事は理解した。やばそうな敵がいれば逃げればいいだけさ。
グルルルル
そんな事を思いながら獣道を鼻歌交じりで行進する長髪のビギナー。 そこに聞きなれない唸り声が混じっていることに、オレはまったく気付けなかった。
へ?
背中を斬られていた。 血潮が飛び散っていた。 HPがあっという間に減っていた。
ひょえええええええ!!!
視界をグルグルと動かしてみる。 ととてもとても強そうな敵。 オークだった。
逃げようとしたオレに冷酷な一撃を浴びせるオーク。 合計、3発。 そうしてオレは力尽きた。
ズサッ 倒れたオレに興味を無くしたかのように、去っていくオーク。
どぅぅぅん…
そして、寂しい音とともに出る文字。
「LEVEL DOWN」
なにぃぃ!!!このゲームは死んだらLv下がるのかぁ!!!
そんなこんなで、オレの記念すべき初レベルダウンが完了した。 泣く泣くホームポイントに戻ったオレ。 とりあえず今日はこの辺にして、そろそろ寝るとしよう。
・・・。
と、ここである疑問が。 どうやってゲーム終わるんだ? ドラクエなら教会とかで現在のデータをセーブできるし、その後電源を切るように丁寧なアナウンスがある。 他のFFシリーズもまた然り。また、セーブを行わないと今までやってきた努力が水の泡だ。
が、いくら探しても、教会の神父もいなければセーブという項目も見つからない。
どうゆうことだ!
あせるオレ。 混乱したオレは、釣りをしている他プレイヤーの人の周りをぐるぐるとしてみた。
Celenににこりと微笑んだ。
先輩釣り士は、そんなオレに優しく微笑んでいる。
違うんだ!!違うんだよ!!
恥ずかしくなったオレは、いちもくさんにそこを離れるのだった。
・・・。
あぁ、もういいや・・セーブに関してはまた明日調べよう。 とりあえず今日は寝よう。 ゲームの終わり方がわからなかったオレがとった最終手段。
PC本体を強制終了。
後日Windows様が少々お怒りのご様子だったわけだが、まあそんなこんなでオレの最初の1日が終了したのだった。
Celenのヴァナ・ディール最初の日。 パニくりながらもすべてが新鮮だった日。 そして、この先オレはここで友達ができたりするのか。 どこまで強くなれるのか。 期待と不安が等しく身体を支配した、心地よい日。
オレの初ヴァナは、こんな感じだった。か。 期待と不安が等しく身体を支配した、心地よい日。
オレの初ヴァナは、こんな感じだった。